21世紀の縄文人を目指す男の記録


by jhomonjin
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整体の指導者の研修会で、五ケ月振りに上京した。
バイクで新宿に到着したのは、夜の10時くらい。
久し振りのネオンの街は、未来都市の風景で、映画「ブレードランナー」の世界そのものだ。
糸魚川にもネオン街はあるが、高層ビルビルもないし、ネオンの数も種類も桁が違う。
第一に祭りでも無いのに、夜の10時過ぎに、多くの人がゾロゾロと歩いている風景を地方都市で見る事はない。

浅草のシンタローの家にやっかいになって、研修前の二日間を落語三昧で過ごした。

落語は物心ついた子供の頃から好きなのだ。
子供の頃は落語そのものよりも、噺家さんの佇まいを観るのが好きだった。
なんだか噺家は、風呂上りのようなサッパリとした雰囲気を醸し出している。
特に襟足の涼やかさ。小ざっぱりとした雰囲気。一言で言うと小粋なのだ。
過剰ではない、清潔感、必要最小限といったキーワードが相応しい。
その雰囲気に江戸の匂いを感じた。
学生の時にアメ横の魚屋でバイトしてたのは、落語に出て来る江戸っ子に憧れて、そんな江戸の雰囲気を感じたくて、その中にどっぷりと浸かってみたかったからだ。

寄席という言葉を知らない人の為に説明をしておく。
寄席とは、落語や浪曲、講談といった江戸の和芸を専門に上演する小さな劇場の事だ。
基本的に年中無休で、昼から夕方までを昼席、夜を夜席のそれぞれ別のプログラムが上演されている。
都内には現在、新宿・池袋・上野・浅草に四つの寄席が残っている。
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浅草演芸ホール
観光客が多いので、猥雑で雑多な雰囲気でそこが魅力でもある。
シンタローの家に泊まった時には、銭湯で朝風呂に行ってから、ここに行くのが愉しみ。
俺流江戸っ子ごっこだ。

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木馬亭
落語ではなく浪曲の専門小屋。浪曲も絶滅危惧種の芸能だ。
浅草演芸ホールのすぐ近くだが、空席が目立つ。浪曲は面白いのに、その事に気付いて無い人が多いのはもったいないねえ。

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新宿末廣亭
戦後のドサクサに建てられた古い寄席で、最も江戸の匂いが濃厚。
志ん生、文楽も出た高座が今でも現役だ。
初めて寄席に行く、という人に勧めるのがここだ。

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上野鈴本演芸場
上野駅から歩いて5分。鈴本と浅草演芸場は近いので、片方の出番を終えた噺家さんが銀座線に乗って移動しているのをよく見かける。

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追出太鼓
開演三十分前には二番太鼓が叩かれる。来い来いお多福来い来いの調子で叩く。
終演後は追出太鼓。
この太鼓を叩くのは楽屋内だが、上野だけは玄関で叩いてくれるので、上手い顧客サービスだな。

寄席は昼夜とも、最初の出演者は前座さんという若手。
前座さんは修行の為に高座に出るので、前座さんの落語は料金に含まれていない、とよく自虐ネタを言ったりする。
前座さんは開演前の十五分が出番なので、前座さんの落語を聴きたい場合は開演前に寄席に入っていなければならない。
前座さんは、出演者が入れ替わる度に座布団を裏返す「高座返し」や、出演者の名前が書かれた「めくり」を変えたり、出囃子の音曲の三味線以外の笛、太鼓、鐘の演奏も仕事のうちだ。
他の出演者の着替えを手伝ったり、着物を畳んだり、お茶汲み、ネタ帖(誰がどんな題の落語をしたのかを書き留める帳面)を毛筆で付けたりなんかの楽屋内の雑多な仕事もあり、これらの全てが前座修行だ。

次が三年前後の前座修行を終えた二つ目さんの出番。
前座と違って、二つ目さんは羽織を着る事が許されている他、師匠から教わった落語にアドリブや独自の工夫をする事も許されている。
それからの出演者は、二つ目さんの上の真打と、その合間に彩りとして出演する漫才、手品、音曲などの出演者だけだ。
プログラム全体の七割くらいが終わった時が二十分ほどの「中入休憩」。
前座さんが大きな声で「おなぁかぁいりぃ~」と太鼓を叩くのが合図だ。
売店で弁当(稲荷ずし、助六寿司など。弁当にまで江戸の匂いがする)を買ったり、煙草やトイレに行くのがこのタイミングだ。
後半の最初の出番は「食付き」といって、休憩でざわつく客席を鎮める難しい役になる。
最後の出演者は「トリ」という。
昔は寄席から出る出演料をトリの噺家が纏めて受けと取り、他の出演者に分け与えていたことからトリと呼ばれるようになったそうだ。
その時代は前座、二つ目、真打といった身分と相応の実力別によって、出演料の分け前が厳密に決まっていて、その割合の事を「ワリ」という。
ワリの合わない、という言葉の語源である。
前座、真打、ネタ帖、トリ、ワリなどという江戸時代から続く寄席の符丁が、現代の日本語に普通に生きている所が面白い。

寄席は江戸の匂いで満ちている。
9・11の同時多発テロが起きた時に、「ディズニーランドのようなアメリカの匂いのする所は危険です。しかも人がたくさんいてテロに狙われる可能性が高い。そこへ行くってぇと寄席はどうですか?アメリカの匂いは微塵も無いっ。それに・・・空席の目立つ客席を見渡して・・・お席にこんなに余裕があります。こんな時には寄席で安全に過ごすに限りますっ!」と噺家は言っていた。

トリの落語が終わると「追い出しの太鼓」が叩かれる。
太鼓が鳴り始めてからトリが頭を下げている間に、観客はさっさと出て行くのがエチケットだ。
追い出しは、出て行け出て行け、早く出て行けと叩くのだそうだ。
お後が宜しいようで・・・・
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by jhomonjin | 2010-09-02 10:42 | 失われゆく風景 | Comments(2)