21世紀の縄文人を目指す男の記録


by jhomonjin
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稚児ケ池奇譚・・・静かな祭

けんか祭を終えてすぐに汗臭い祭り装束のまま、祭見物に来たカズさん一家と千葉のまっちゃんを連れて稚児ケ池に行った。
稚児ケ池は俺の家のすぐ裏の小高い丘にあり、前にも書いた奴奈川姫命の入水の地、と伝承のある瓢箪型の小さな池だ。地元でも稚児ケ池の存在を知っている人は少なく、普段は訪れる人も稀な淋しい杉林のなかにその池はある。
しかも池といっても付近は近代になって植林された杉の為か、現在は水の枯れた萱の生い茂る沼地となっており、特に案内板も無い細い遊歩道の脇にあるので説明されないと分からないのだ。
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稚児ケ池
小さな池といっても奥行きは結構ある。50mプール二つ分は優にあるだろう。
右手のこんもりした半島状の杉林がカズさんが選んだご神事の場所。



初めてカズさんに逢った時に、カズさんはライフワークとして縄文人の御魂の鎮魂神事をして、各地を歩いていると話してくれた。
その時に俺は我が意を得たり、と奴奈川姫にまつわる話をしたのだ。
縄文時代から糸魚川は翡翠の産地として名高かった事、古墳時代の始め頃に糸魚川は奴奈川の郷と呼ばれ、縄文系らしい奴奈川族が出雲に侵略された事、族長である奴奈川姫が出雲に拉致されたが逃げ帰って故郷で非業の死を遂げた事、俺の実家は奴奈川族の拠点付近にある事、糸魚川一宮である天津神社の氏子は奴奈川族の子孫であるかも知れない事、俺の中では、けんか祭は先祖の奴奈川族の鎮魂の祭でもある事、などなど個人的な思い入れ話を興奮して喋ったのだ。
こんな与太話しにカズさんは非常に興味を持ってくれて、今回のけんか祭に来てくれる事になったのだ。

その荒振るけんか祭のと同じ日の内に、是非ともカズさんを稚児ケ池に案内したかったのだ。何かが起る予感がした。
稚児ケ池にはそれまでに何度か一人で来てはいたが、そこはちょっと張り詰めた気配のある場所で、気の弱い人なら途中で引き返したくなる感じのする処だ。

前日に下見していたのに何故か道に迷った。
同行のまっちゃんが「なんだかケモノの臭いがするけど、近くで牛か豚でも飼ってるんすか?」と変な事を言い出す。バカ野郎、俺ん家はそんな田舎じゃねえ!お前ぇの体臭と違うんかい?肉の喰い過ぎだ、ダイエットせんかい!と返すが、確かに変な臭いがする。・・・まっちゃんは体重100キロの相撲取り体型です。俺は彼をトトロに最も近い人類と呼んでいる・・・。

稚児ケ池に着くと、カズさんは迷いもせずに場所を決め、早速に鎮魂の神事の支度にかかった。
まず供物を並べ火打石で火を起す。初対面の時に教えた火打石による火越し技術は、独自に工夫を凝らして達人の域に入っていたのは流石。カズさんも真剣な人だ。

この時、一行全員がペキッ、パキッ、バキッと小枝を折るような、枯れた小枝が落ちるような音があちこちからするのを聞いていた。こんな人家近くで猿でもいるのか、それとも小鳥やリスが滅多に来ない人間が来たので驚いて逃げているのかねえ?と話していたのだ。
まっちゃんは相変わらず「牛というよりケモノの臭いがする」といい続ける。
他の人も「確かにケモノっぽい臭いがする!」といい始めた。稚児ケ池の雰囲気はいつも通り張り詰めた気配のままだ。
夕闇が迫る時刻なので嫌な事を言いやがる、と内心「このヤロー、余計な事いってんじゃねぇや!」と毒づいた。

その内にカズさんは実に巧みに美しい焚火を起し、唐突に歌を唄い始めた。
「あなたのまなざしに 私の胸が開く~中略~めでても めでても あふれる愛の泉~後略」
カズさんの名曲「愛の泉」だ。(アルバム ai no izumi  収録曲)
カズさんの声と歌には潤いがある。しっとりとした静けさとを感じる。
そう涙だ。カズさんの歌には涙を感じる。哀愁の涙、悲愁の涙、郷愁の涙、それに歓喜の涙。
でもけっして恨めしいとか悔しいとかのネガティブな涙では無い。太古から未来まで、なんだか切ない涙で繋がっている。
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禊ぎの時の炎
カズさんのご神事中の写真代わりに。
何故だか炎は見飽きない。スワヒリ語では焚火にじっと見入ってしまう事を「火を夢見る」というのだそうだ。好きな言葉。


歌を二曲続けた後にお祈りとちょとした儀式。参加者に米を配って焚火に投じさせた。
これでご神事が終わりました、とカズさんは言うと、供物の煎餅やチコレートを皆に配って食べさせた。神人共食の儀式だ。カズさんは祭りのやりかたを心憎いまでにご存知なのだ。
お菓子で直会(なおらい・・・祭りの後に神からの供物のお裾分けを共に食する宴会)をしていると、ほぼ全員が同時にある事に気付いた。
先程までの小枝を折るような音がまったく聞こえなくなっているのだ。
そして急に聴こえ始めたかのように楽しげな小鳥のさえずりが耳に入ってきた。辺りの気配も緊迫感が失せて清々しい空気感に変わっている。
夕闇迫る、と思っていた空さえ透き通って明るく見え、ケモノ臭さもまったく消失していた。
あきらかに場が変わった。
なんか淒ぇ処に居合わせてしまった、と実感した。おい何か淒ぇぜ!淒ぇよな?とまっちゃんと顔を見合わせる。
稚児ケ池に到着してから三十分程の出来事だ。
それにしても、あの小枝の折れるような音はラップ現象というものだったのか?

いっておくが、俺はUFO方面以外は神秘的な体験は皆無だし、人里離れた縄文遺跡で数多くの野宿を経験してはいるが、何も劇的な現象には遭っていない。
占いや予言の類、ニューエイジ系や精神世界方面の話ばかりする人がいると半径5m以内には近づきたくない男だ。したり顔で抹香臭い話しや、実体の無い話しをする奴は苦手なのだ。
でも確かに場が変わったのを実感した。

春日大社の宮司さんの著書に、「祭とは本来、神と人の間を吊り合わせるという意味があるから間吊りなのです。神と人が一体になって、神のエネルギーを頂く儀式・・・云々」というような書いてあった。
この事はけんか祭に出るようになってから実感する処だったが、荒振る動のけんか祭のすぐ後に、カズさんは歌で優しく静の祭を執り行ってくれた。

奴奈川姫が稚児ケ池で入水自殺した、とは公式文書に記載されている事では無く、口伝伝承に過ぎない。単なる伝説の域を出ないかもしれない。でもあの場の気配は確かに喜んでいるように感じた。
こんな事もあるんだな、と俺も嬉しくなった。こういう時に祭りバカがする事はひとつしかない。
手締めだ。

ご神事の最後には、やっぱり手締めでしょう!と提案して、寺町の中でも俺の生まれ育った新町式の独特の手締めをする事になった。音頭は浅草の鳶頭の音頭取りのアレンジだ。
「それではご神事を目出度く執り行う事が出来ましたので、新町式の手締めを致します。不肖、私が音頭を取らせて頂ますので、皆様方におかれましては宜しくご唱和の程、お願い致します。稚児ケ池の皆さん方も宜しく頼むよぉう!ではいきます。いっよーっ、シャシャシャンシャン、シャンシャン!おうっ!シャシャシャンシャン、シャンシャン!パチパチパチ(一同の拍手)これで万時メデタク手締めと相成りました。皆さぁぁぁんっ、有難ぉぉぉうっ!!」と蛮声を上げると、一行も池の周囲に向かって有難ぉぉぉうっ!おめでとぉぉぉうっ!!と負けずに大声を張り上げた。
まずは万々歳だ。メデタシメデタシ。空には不思議な形の雲が浮かんでいた。
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ご神事の後の雲
参加者は鳳凰が羽根を拡げているようだ、とか三体の龍が飛んで行くようだ、とか言い合った。
あの場を共有したなら誰でもそう感じると思う。自然科学的な解釈など、あの時の様な体験をした事の無い人に任せておけばいい。それこそが縄文時間、縄文感覚だ。

これにて稚児ケ池奇譚一巻の読み終わり。チョン!
(俺は祭りバカだけでなく、落語、講談、浪曲などの日本の話芸バカでもある。)

追伸 このブログを書いた翌日の夜遅く、市内の鬼伏(おにふし)という所で車がパンクした。
鬼伏は出雲が攻めて来た時に粛慎人の夜星武命が一度は撃退に成功したが、二度目に攻めて来た時に敗れて降伏した地である。
日本の古代史の常として、敗者は鬼と呼ばれ、鬼が伏した地であることからこの地名になったと伝えられている。
何か縁があるのだろうな、と思っている。黙祷!
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by jhomonjin | 2010-04-12 23:43 | 祭り